サスケは橋にさしかかったところで足を止めた。
川辺の流れの緩やかなところに何かを見たような気がしたからだ。
橋の欄干に手をかけて水面を覗きこむと、そこに見えたのは。
(カカシ・・・?)
緩やかではあるが、水面がゆらゆらゆれている中に、よく見知った顔が映っている。
角度からいって、どうやら川の流れの上に伸びている枝にいるらしい。
川に目をやらなければ、そのまま気づかずに通りすぎてしまっただろう。
まったく気配を感じなかった。
アイツに「気づかなかった」と思われるのは、なんだかムカツク。
とりあえず気づけてよかった。
顔を上げて探すのはしゃくなので、サスケはちらとも上を見ずに、水面のカカシの顔を見た。
当然だが、向こうもすでにこちらに気がついているようで、川の中の片眼がこちらを見ている。
初夏の緑が顔の周りに映ってゆらゆらゆれている。
(よくあんな細い枝にとまれるな・・・)
橋のたもとの太い幹の大きな木。
枝を直接見たわけではないが、カカシのいるあたりはきっと人間を支えるだけの太さはないと想像がつく。
無意識に鳥みたいだと感じながら、水面を眺める。
木に登っている向こうからはきっとこちらは丸見えだろう。
見下ろされていることを思うと居心地が悪くなったが、なんとなくそこから離れるタイミングを逃してしまった。
(あんなとこで何やってんだ)
どうせ大したことはしていない。と勝手に結論付けた。
いつものふざけた本でも読んでいたのだろう。
サスケの考えが伝わったのか、水に映るカカシは何か言いたそうにして、マスクを少しずらした。
何か口をパクパクさせているが、水面がゆれてよくわからない。
上からの声は聞こえてこない。
少し興味をひかれ、意識を集中させてゆれる口元を見つめる。
(・・・ア、ア・・・カ・・・?・・・バーカ!?・・・)
思わずむっとした顔をすると、いつのまにかマスクを戻したカカシが目だけで笑っているような気がした。
くやしいのでこちらも、水面のカカシに向かって、唇の動きだけで「エ・ロ・お・や・じ」と言ってやった。
すると間髪入れず、
ザバーン
と、すぐ目の前の水が派手な音を上げた。
水飛沫が飛んでくる。
どうやらカカシが川に落ちたようだ。
一瞬落ちていく黒い塊が見えた。
(・・・・・・なんなんだ・・・)
少しびっくりして欄干を離れ、少し前方にある、頭上の枝に目をやる。
おそらくついさっきまでいたであろうそこには、カカシの姿はない。
(・・・なんなんだ、アイツ・・・)
水面に映っていなければ、そこにいることをまったく感じさせなかった。
しかも自分の腕よりまだ細い枝にいた。
あんなに完全に気配を消していたのに、あんなに細い枝にいたのに。
こちらがお返しにいった「エロおやじ」の一言で落ちるとは・・・。
しかも、「エロおやじ」って「バカ」より長いのに、よく一度で読み取ったな・・・とそんなことにも思い当たり。
やはり、
(なんなんだ・・・)
としか思えなかった。
ふと我に返り川を見ると、下流の方に岸に上がる銀髪の黒い姿があった。
少し流されたらしい。
(しょうがねぇな)
岸に上がったカカシはきょろきょろと水面を見渡し、あとから流れてきたらしい本を拾っていた。
おそらく、いつも肌身離さず持っている、あの謎の本だろう。
こちらからは表情は見えないが、少しうなだれているような姿勢からして、「あーあ」と情けない声を出しているのだろう。
びしょぬれになった服も気持ち悪そうだ。
そんな様子を眺めていると、カカシがこちらを向いた。
何か言っているようだが、川の音が邪魔して聞こえない。
少し、ではなく、けっこう流されたみたいだ、と認識を改める。
「・・・・!」
カカシは身振り手振りで何かを伝えようとしてくる。
(わけわかんねぇ)
こちらのせいだと文句を言っているのだろうか。
それには何も応えようとせず、サスケはやっと橋を渡るために歩き始めた。
(そっちが勝手に落ちたんだろ・・・)
非情なことを考えながらさっさと橋を渡り終えた。
カカシが追いかけてくる様子はない。
きっとまだ情けない顔をして、服を先に乾かすか、本を先に乾かすか、なんて考えてるんだろう。
(ウスラトンカチ)
今しがたのことを思いながら歩いていたら、自分でも気づかないうちに口元が笑っていた。
アレでほんとに上忍かよ、とか、たいしたことねぇな、と思ってまた口が笑う。
しばらく歩いて家に帰りつき、ドアを開けて、またさっきのことを思い出した。
「フフ」
サスケは今度は声に出して笑い、いつもより少し軽い気持ちで家の中に入っていった。
END