風が髪を撫でていくのを感じながら目を閉じる。
背を預けた幹の、上の方の枝が風でさわさわと音を立てる。
葉の擦れ合う音。
遠くの子どもの声。
そのまましばらく目を瞑り、夢の中に入っていく。
里からそう離れてはいない小高い丘で。
自然の一部になったような気のする、そんな休日。
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カカシが読書をしようかとお気に入りの場所に行ってみると、そこには先客がいた。
里から近いのに、里よりも高いところにあり、来るまでに森やら谷やらを通って来なくてはならないため、ほとんど人が来ることのない場所。
その丘の真ん中にある大きな木の根元に、足を投げ出して眠るサスケがいる。
よく知っている顔。
こんなところで会うと少し胸が踊る。
サスケの膝の上には、開かれたままの巻物。
気配を消していたので、こちらに気づく様子はない。
「こんなとこ、襲われちゃったらどーすんの」
隣にしゃがみながら、聞こえないように口の中で小さく呟く。
サスケは、全く気づく様子もなく、気持ち良さそうに寝息を立てて眠っている。
少し仰向き加減で、いつもは堅く引き結ばれている口が、今は緩やかに開けられている。
指1本くらいなら入りそうだな、とちょっと悪戯心がうずいたが、それもどうかと思ったので、結局やめた。
その代わりに、膝の上に広げたままの巻物をそっと手に取り、巻いていく。
カカシも昔読んだことのある、懐かしい感じのする術書。
「たまのお休みまでこんなの読むかねぇ」
ため息と一緒にそっと吐き出してみたが、それが妙にサスケらしくて、いつのまにか口元は苦笑に変わる。
巻物をサスケの脇に置き、ジャケットを脱いでサスケに掛けてやる。
そして、その隣に腰を下ろして、予定通り読書を始める。
気持ちのよい風の吹く丘。
お気に入りの場所、お気に入りの過ごし方、お気に入りの・・・。
ちらっと横のサスケを見ると、向こう側に倒れかかっている。
カカシはそれを見て立ちあがると、木をぐるっと回って、さっきとは反対側のサスケの隣に腰を下ろした。
じょじょに倒れてくるサスケの頭が、カカシの腕にあたって止まる。
肩に頭が乗るはずだったんだけど・・・。
身長の差を失念していた。
このままだと片腕が動かない。
別にそれでも構わなかったが、片腕が動かせないと何かと不便な感じがするので、サスケの頭を慎重に腿の上に乗せる。
こんなに神経を使ったのは久々だ、と思いながら目を覚まさないサスケを見てほっとする。
そして、また、読書の続き。
+++
ふと、風以外に、何かが髪を撫でているのに気づく。
半分夢の中で、気持ちいい、とうっすら考える。
瞬間、なにか弾力のある温かいものを枕にしていることに気がついて、飛び起きる。
「あれ、目ぇ覚めちゃった?」
「なっ・・・、!」
どうしてここに、と思うが驚きのあまり声が出ない。
枕にしていたものも、髪を撫でていたのも、ひょっとして・・・。
カカシが来たことに気づかなかった自分に腹が立ったのと、寝ているところを見られて恥ずかしいのとで、身体がカーっと熱くなる。
カカシと気づかずに、気持ちいいなどとうっかり考えてしまったことも、地団太を踏みたいぐらい悔しい。
ほんとに、不覚!
「寝心地よかったでしょ?」
片目だけで笑う上忍の顔が、自然と勝ち誇っているかのように見えて、ますます頭に血が上る。
まるっきり子供扱い。
「――――――・・・!」
何か言ってやりたいのに、何も頭に思い浮かばない。
たとえ、何か言ったとしても、ますます自分の立場を悪くするような気がして、舌打ちして立ちあがる。
バサッと音を立てて、身体から何かが落ちる。
同時に、ぬくもりが逃げて体が少し寒さを感じる。
足元を見ると、カカシのジャケットが落ちていた。
これも掛けられてたのか!
自分が全く気づかないうちに!
サスケは、一瞬目を大きく見開いてから眉間に深くしわを寄せると、舌打ちをした。
そして、真っ赤な顔のまま、「フン」と一言残して消えてしまった。
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「ありゃりゃー・・・」
怒らせちゃったかな。
さっきのサスケを思い出して、くすっと笑う。
まるで、毛を逆立てた猫みたいだった。
下に落ちたジャケットを拾い、草を払う。
ジャケットのそばに落ちているのは、サスケが忘れていった巻物。
よほど気が動転していたのだろう。
ジャケットを羽織ながら、さっきまで小さな頭が乗っていたところのぬくもりが冷えていくのを感じ、少しさみしく感じる。
手に残るサスケの髪の感触も、余計さみしさを引き立てる。
やっとひとりになれたのに。
お気に入りの場所にひとりになって感じるのは、安堵ではなくて、物足りなさ。
「サスケ帰ってこないかな〜」
自分でも意識しないうちに呟いて、それはないだろうな、と読みかけの本に目を落とし。
字を追っても内容が頭に入ってこなくて、何度も同じ個所を読みなおす。
サスケと遊んでる方が楽しいな。
そんなことばかり考えてしまう。
結局、集中できない読書はやめて、腕を枕にしてごろんと寝転んだ。
風が通るのを肌に感じ、葉がさらさらと音を立てるのを聞く。
いつのまにか眠りにひきこまれてしまう。
そんな、いつもの休日。
END