血によせて・・・








夕方の賑わいを見せる人ごみの中を、ポケットに手を突っ込んだまますり抜けていく。

任務からの帰り道。さっきカカシやナルトやサクラと別れたばかりだ。
カカシは報告があるからと一足先に消え、「どこかでお茶でも飲んでかない?」と言うサクラの誘いを断り、それを聞いて「サクラちゃん、オレと行こうってばよ」と言うナルトにフンと顔を背けてから、別れの挨拶を交わし帰路についた。

いつもと同じ、夕方の光景。いつもと違うのは、背中に刺さる視線。

さっきからずっとついてきているが、まだ姿は確認していない。
こちらから姿が見えないように隠れてはいるが、気配は消していないようだ。気配を消すつもりは最初からないのだろう。わざとこちらに気配を悟らせ、それで姿を見せずにいるなんて、人を馬鹿にしている。自分をからかっているのだ。

ナルトほど、里の者たちからあからさまに区別されてはいないが、それでもやはり一線を引かれている感じは時たまあったので、またか、と思い眉をこれまでよりも心持ちしかめる。ナルトの事情に立ち入るつもりはまったくないのでなぜナルトがいたずらばかりするというだけであそこまで区別されるのかは知らないが、自分の場合は大体見当がつく。
天才一族の末裔であるということからくる憧憬、羨望、嫉妬。滅びたことに対する嘲笑もあるのかもしれない。

昔から自分に向けられるそういう視線には慣れていたから、今さら驚いたりはしないが、やはり浴びててあまり気分のいいものではなく、じょじょに不愉快になってくる。
このまま家に向かって家までついてこられるのも気分が悪いので、家のほうには向かわずに少し道を外れる。そのまましばらく進んで、人家が疎らになる辺りで立ち止まる。その辺りだったら隠れる場所はほとんどない。道の脇の木の下で振り向いて、無礼な追跡者たちを待つ。

姿を現したのは4人。立ち居振舞いから見て、おそらく中忍だろう。

 

「何の用だ」

少し表情をきつめのものにして、そのうちのひとりのおそらくリーダー格であるであろう男に向かって聞く。

その男は口元を歪めて、「・・・写輪眼見せてよ」と言った。

やはりやっかみからくるくだらない茶番だ。
興味があるふうを装って、と言っても口先だけのものでしかないが、人を貶めるネタを探しているような人間どもだ。写輪眼といえばこちらがなにかしら動揺を見せると思っているのだろう。自分の劣等感をなんとかしてやろうと、かわりに人を見下そうとする姿勢には吐き気がする。しかも、仲間がいないと何もできないようなやつらだ。くだらない。どうしてこんなやつらが忍をしているのか。

「その必要はない」と、きっぱりと言い切る。

相手にするのも時間の無駄だ。それぞれ4人の顔を確認して、その場を立ち去ろうとする。

「俺たち下々のものには見せる必要ないってわけ?さすがエリート、お高くとまっていらっしゃる」

そう言いながら、リーダー格の男がいきなりつかみかかってくる。それをかわしたところで別の男たちに周りを囲まれ、羽交い絞めにされた。

「見せろよ!」

「離せ」

2人相手なら、何とかなる自信はある。いくら自分より上の中忍といえども、こんな腐ったようなやつらに負ける気はしない。
しかし、4人となると・・・。どうするか。
羽交い絞めにされて囲まれているというのに、臆した様子の全然見えないサスケに腹を立て、リーダー格の男がサスケのあごに手をかけてきた。強く顎を掴み上向かせるそのやり方が、なにかねっとりと絡みつくようでおぞ気が走る。その不愉快な感覚に眉をしかめ、その男の顔を睨んだ。
「その汚い手をどけろ」
そう言って目つきをますますきつくした。

サスケのその言葉に、男のこめかみに血管が浮かぶ。

「口で言ってもわからないのか」

「何をわかれって言うんだよ、わかって欲しいなら人語をしゃべれ」

男の頭に血が上ったようだが、元の色が黒いせいで赤黒くて汚い色になる。
醜い・・・と心の中で思った瞬間、左の頬に衝撃を受けた。高い位置から振り下ろすように殴られたため、顔は右斜め下を向くかたちになる。鈍い痛みが広がるのを感じながら、足元に咲いている花の色を見るでもなく眺める。口の中が切れたらしく、口の中に血の味がじわりと広がる。顔を戻し、正面の男の顔を見たと思ったら、今度は反対側に顔が振られた。
1回殴られるごとに、どこかで理性が軋む音を立てる。
こんな腐ったようなやつらに殴られても、肉体的には苦痛は当然あるとしても、どうということはないが、1回ごとにどこかにある闘争心が強くなってくるのを感じる。
中忍のこぶしには、鋭さはないがそれなりに重く、全身に受けているとさすがにダメージが大きい。

それでも泣き言はともかくうめき声すらあげないサスケに業を煮やし、殴り続けながら男は言った。

「うちはの血もたいしたことねぇな」
わざと嘲るような声音で。

かっと頭に血が上る。こちらを挑発しているのだとわかったが、その言葉を聞き流すことはできなかった。

 

「もう一度言ってみろよ、殺すぞ・・・」

半ば本気で言うと、男たちは一瞬目を見開き、ますます顔を紅潮させて息を荒くした。そして激昂した声で怒鳴りつけてくる。

「やれるものなら・・・、!!」

押さえつけられていた手を縄から抜ける要領で一瞬で抜き取り、足のくないに手を伸ばす。すばやくくないを手に取り、まずは羽交い絞めにしていた男の咽喉元に刃先を突きつけようとしたとき、男の声が不意に止まった。続くはずの言葉は出てこない。

それをいぶかしむ暇もなく、何かに全身を打たれたような感じがして、サスケのくないを持つ手が止まる。

一瞬にしてその場の空気が凍ったような感じになり、体がゾクゾクする。

これは、殺気・・・。

 

鼓膜がびりびりとなるような錯覚さえ起こるくらいすさまじい、気。自分を羽交い絞めにしていた男がカタカタと振るえているのが、まだ掴まれたままの左腕から伝わってくる。掴んだ手は強張って力が入っていないみたいなので、今逃げようと思えばすぐに逃げられるが、サスケ自身の足もすくんで動かない。
冷や汗がやけにゆっくりと背中を伝う感触が、気持ち悪い。

それでも、目だけをなんとか殺気が発せられる方向に向けると、サスケに暴行を加えていた男のうちのひとりに、銀髪の男が後ろから首に腕を巻きつけ、顎にくないを突きつけているのが見てとれた。

カカシだ。

おそらく自分を助けにきたのだろうが、サスケもこの銀髪の上忍を恐ろしく感じた。安心なんて、とてもできない。
怖い、本当に。

永遠に続くかと思われた時間は、その上忍によって断たれた。

「お前ら、オレの部下に何をしている・・・」

当然答えるものなどなく、誰かがごくりとつばを飲む音が、やけに大きく響く。

「二度とこいつに手を出すな。次はないぞ」

声自体は大きくないのに、その言葉はそこにいた全員の耳に重く響いた。
そしてカカシは、首を締め付けていた男を放すと「行け」とその男の肩を押した。4人はその場にへたり込みそうになっていたが、あわあわとその場から逃げ出す。
サスケはその場に立ち尽くしたまま、動くことができなかった。目を見開いて、カカシが近づいてくるのを見る。

「何怖がってんの、・・・まいったな」

そう言ってカカシが頭をかくと、ようやくいつものカカシに戻ったような気がして、サスケはほっと息をつく。
しかし、まだその場のぴりぴりとした空気は解けていないように感じる、

「無駄に殺気なんか出すな、中途半端な殺気はあいつらをあおるだけだ」

カカシはそう言いながらサスケの前に膝をつき、あちこちについている傷に手早く応急処置を施す。

「あーあ、まったくお前はつまらないことでけがするのが好きだね」
それに続いて、小さく、ガキなんだから、と呟く声。

いつもされるようにまた子ども扱いされてむっとするのに、なぜか言い返せない。

その沈黙をどうとったのかは知らないが、カカシが続けて言う。
「あんなの、いちいち相手にするな。もっとうまくやれ」

とりあえず自分の心配はしてくれているようなので、サスケは曖昧に頷いた。

カカシは、どこか、よくわかっていなさそうなサスケの顔をちらりと覗き込んで、気づかれないようにため息をそっと吐き出す。

やっぱりわかっていないんだ、この恐ろしい力を持った子どもは。

 

任務が終わってから報告書を提出し、カカシは人通りの多い街中をふらふらと歩いていた。
ある地点にさしかかったところで、ふと、背中がぞくりとするのを感じる。

おそらくほかの人間は感じてはいなかったろうが、それはまさしく殺気だった。しかし、ただの殺気ではない。体が思わず震えるような、どこか快感にも似た感覚が湧き起こるような。

抗いがたい力を感じて、引き寄せられるようにそちらの方向に向かうと、人気のあまりない細い道の脇で男の後姿が3つと、羽交い絞めにされた子どもと羽交い絞めにした男が見えた。

サスケの姿を確認すると、やっぱりと思うと同時に、怒りがわいてくる。

男たちに対してか、それともサスケに対してなのかはわからなかったが、それは少し嫉妬に似ていたかもしれない。

サスケが殺気を出していることに対しての。

 

サスケの抱く殺気は、うちはの血が抱く殺気。
天才と呼ばれる一族が、天才と呼ばれる所以でもある、殺意を抱いたときに発散される気。

それは甘美な麻薬のように、脳に、胸に、浸透する。

うちは一族の人間がひとり任務に参加しているというだけで、その任務が成功すると確信することができ、不安や怯えなどまったく感じることなく任務を遂行することができると言われた。
そのうちは一族のカリスマ性。殺気に限らず、発せられる気が常人のものとは根本的に違うのだ。その中でも、傑出していたのが殺気だった。
その場にいる人間を幻惑させる、麻薬のようなもの。
味方の心を奮い立たせ、一方で恐怖に対する感覚を麻痺させる。
または、敵の心を萎えさせ、判断力を鈍らせる。
その力は、姿を見れば目から、声を聞けば耳から、触れれば皮膚から浸透してくる。五感で感じられない気は、直接脳や胸を支配して。

・・・サスケは、この幼い天才一族の生き残りは、まだ気を十分にコントロールすることができないから、というよりはまだ自分の気がどんな影響を他人に与えるのか知らないから、こんなに簡単に殺気を出したりするのだ。

自分もつい惹き寄せられた、あの背中を震わせる、殺気。

さっき、サスケの間近でサスケの殺気を感じたさっきの中忍どもは、どんなにか興奮したことだろう。まだ相手をねじ伏せるまでには至らないサスケの殺意では、むしろ闘争心や嗜虐心を煽られたのではないだろうか。
オレがそれを快感と受け取ったのと同様に、その殺気を恐ろしくも甘美だと感じたに違いない。

そう思うと、さっき怒りを感じたときのように、また心の中で何かが燃えているような感じがした。

「あのね、オレのいないところで、殺気を出しちゃだめ」

サスケの目が、なんでだよというふうにカカシを見下ろす。

・・・その目もうちはの血を色濃くついでいて、深い闇色に吸い込まれそうになる。

 

うちは一族の中でも、さらに一部の家系にしか現れない写輪眼は、その力のひとつとして催眠力を持つが、写輪眼でなくてもうちはの瞳は十分幻惑的だった。

それは、まるで相手の心を移す鏡のようで・・・。

間近でその目を見つめると深淵を覗き込んだような、深い穴に落ちたような感覚になる。
何も映さぬような、それでいて何もかもが溶け込んでいるような真っ黒の瞳の中に見出すのは、己の心。

あいつらは、自分の劣等感や嫉妬など、自分の中に潜む醜い感情を見せつけられたのかもしれない。

おそらく、その前には、サスケの発する気に惹き寄せられて。

・・・もしかすると、被害者と呼べるのは、あいつらのほうなのかもしれない。

 

「あのね、そういう目で人を見ないの」

ますますわけのわからないような顔になって、サスケがカカシを見る。

カカシはその視線には答えず、「はい、おしまい」と包帯が巻かれた手をぽんとたたいて、よっこらしょ、と立ち上がった。
そして、はい、といって手を差し出して、またわけがわからないという顔をしたサスケの手を握る。
「危ないから、一緒に帰ろうか」

いきなり手を握られてわけがわからずにそのつながった部分を睨みつけていたサスケは、そのカカシの発言に、いぶかしげな声音を隠すこともなく、はぁ!?と言って、眉を寄せる。
行動もわけがわからないが、言っていることもわけがわからない。

うさんくさそうなものを見る目でカカシを見上げると、手を振りほどく。

「ひとりで帰れる」

「危ないから、ダーメー」

まだ、子どもなんだから。・・・知らずに人を誘惑して歩くような・・・。
ちなみに、この場合の危ないっていうのは、サスケじゃなくて、周りの人間がってことで〜・・・と誰に聞かせるでもなく心の中で解説し、もう1回サスケの手をとる。

ほんとに、オレが見張っていないと、危ないんだから。

 

サスケはそんなカカシの心中などまったく知らない様子で、呆れたように盛大なため息をついた。

1番危ないのは、なんとなく、こいつ・・・。

そう思いながらも、なんとなく、手はほどけなかった。

 

 

 

END

2000/08/29

2222HITを踏んでくださった紅葉湖霞さまのリクエストで、「サスケを狙っているやつに、こいつは俺のもんだ発言をするカカシ」、でした〜!・・・って、微妙に違う〜!微妙どころか、思いっきり違うのですが〜!!どこをどう解釈したら、このような話になってくるのでしょうか・・・?我ながらすごい脳みそしてます。リクの内容の歪めぶりには、自分でも驚きます・・・。
しかもいろいろなことを勝手に捏造。

こ、湖霞さん、どうしましょう・・・?もし、これでもよければお捧げしたいと思うのですが・・・。
・・・とびくびくしながらお聞きしたところ、いいよvとのお優しい返事がいただけました。ほろり。

湖霞さま、リ、リクどうもありがとうございました〜!!(ちょっと強引!?)

 

 

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