「あれ?」
激しい修行の合間に、カカシが肩で息をしているサスケに近づいた。
「背、伸びた?」
そう言いながら横に並ぶと、心持ちさっきよりも背筋を伸ばしたサスケが「成長期だからな」とさしてうれしくもなさそうな口調で応える。
カカシが「ちょっと前はこ〜んなだったのにな」と言いながら膝のあたりの高さを手で示すと、「んなわけねぇだろ」とちょっとむっとしたように言う。
確かにそんなわけないけれど。
そんなバカみたいな冗談に律儀に答えるサスケの反応が楽しくて、ついつい。
サスケには笑っていることを気づかれないように、「伸びた伸びた」と言いながら何度も頷いて、ごまかしてみる。
サスケは、そんなカカシを胡散臭そうに見上げてから、カカシ側の手を前に伸ばした。
つられてサスケ側の手を前に伸ばしながら、少しかがんで肩の高さをそろえてみる。
カカシの腕の方が手のひら1つ分はゆうに長い。
半袖から出るサスケの腕と、長袖に覆われているカカシの腕とは、身長と同じくらい、はっきりと違いが現れていた。
筋肉はついてきてはいるものの、まだまだ少年らしさの抜けない、なめらかなサスケの腕。
それほど太いわけではないけれど、服の上からでも鍛えているとわかる、大人のカカシの腕。
サスケは黙って2本の腕を見比べている。
カカシは腕の長さを比べるのに付き合いながら、サスケの行動に内心少し驚いていた。
サスケからこうやってコミュニケーションを取ってくるとは思っていなかった。
ただ単に身長を比べたから腕も、と何気ない気持ちなのだろうが、ふだんの自分に対する態度を考えるとこれは大進歩といえる出来事。
カカシに対して、サスケは必要なことしか言ってこないし、アクションを起こしてくるのは訓練のときぐらい。
こちらを意識しているというのは、わかっている。けど。
カカシから働きかければそれなりに反応するけど、ナルトやサクラのように懐いてくることは絶対ない。
・・・少しは慣れてきたのかなあ。
「・・・すぐにでかくなる」
その声に、感慨にふけっていたカカシは腕はそのままで顔だけをサスケのほうに向ける。
サスケはカカシの顔を見て口だけで笑い、
「今だけだ」
と言った。
その顔がやけに自信ありげだったので、素直にそうかもしれない思う。
発展途上のこの少年は、毎日どんどん成長している。
おもしろいかもな・・・。
ふと、そんなことを考える。
どんな成長を遂げるのだろう。
今よりも体もこころもずっと大きくなり、しなやかで、強靭な、そんなサスケ。
早くそんな姿を見てみたいものだね。
でも。
それまでに何をしてやれるだろう。
いつか自分の手を離れてしまう前に、何を教えてやれるだろう。
そして。
自分の導きなど必要としない時が来たら、
こいつに追いつかれたら、その時自分はなんと思うのだろう。
カカシはそんなことを思って、待ち遠しくて、少しでも先に延ばしたくて、楽しみで、怖い、相反する気持ちがごちゃ混ぜの、複雑な気持ちになった。
そんなことを考えていたら少し離れ難くなってしまって。
いい機会だから、比較ついでにもう少しスキンシップをしておこうと、サスケと手のひらを合わせる。
サスケは一瞬手を引っ込めようとしたが、カカシが大きさを比較するようなそぶりを見せると、自分から位置を調整した。
「・・・でかいな」
サスケが少し感心したようにつぶやいた。
向かい合って、2つの手を見つめるサスケを、見つめる。
カカシの手のひらに伝わってくる感触は、まだまだ頼りない。
温かくも冷たくもない微妙な温度を感じる。
そっと触れているだけなのに、いろいろなことが伝わってくるようだ。
少しでも早く強くなりたいと願っている手。
感じられるのは、忍にかける思いだったり、復讐者としての決意だったり、過去の苦痛だったり、現在の孤独だったり、それから・・・カカシを意識していること。
まあ最後のは都合のいい錯覚だな。
そんなことを思いながら、余った指を曲げて、サスケの指を握る。
サスケは怪訝そうな顔をしてちらりとカカシを見た。
それでも、サスケの握られた指はおとなしく。
それをよいことにしっかりと握り直すとさっきよりも手のひらが熱く感じられた。
今はまだ子どものサスケの手。
この手のひらには、自らの苦痛をすべて飲みこむ必要は、まだない。
もう少し、他の手を頼ってもいいと思うんだけど。
オレでよければ力になるよ。
「・・・フン」と鼻を鳴らして、サスケが握られていた手をほどいた。
振り向いてしまったサスケの顔は、心なしか少し赤い。
カカシは、思ってたことが伝わったのかなと考えた。
手は口ほどにものを言う・・・?
「もうひと踏ん張りするか〜」といささかのんきに響く声で言うと、「当然だろ」という返事が返ってきた。
それから、サスケはさっさと木の中に姿を消してしまった。
「お、すばやいね」
相変わらずのんきな声。
つぶやきながら、さっきまで目の前にいたサスケのことを考える。
これからどうなっていくんだろう。
サスケの成長を考えると浮かんでくる、アンビバレントな気持ち。
とりあえず、今日はもうちょっとしごいておくかと、カカシは後を追った。
END