心は世界にそっと触れる






突然降り出してきた雨に、誰かが雨宿りをしていこうと言った。

どこまでも木々が続いているだけと思った道にちょうどよく現れたのは、古ぼけた外見の大きな建物。ところどころ崩れかけた壁、そこに絡まる緑色の大きな蔦の葉や生い茂った雑草が、そこには長いこと誰も住んでいないことを示していた。



これまで通ってきた道に面して入り口があり、そこは大きな扉で閉ざされていたものの、4人がゆったり座って雨宿りできるくらいの屋根がついていた。
雨で濡れはじめた雑草を踏みわけてその屋根の下に駆け寄ると、4人はそれぞれ体についた雫を払った。

木でできた、建物と同じく古そうな扉を押したのは、まずは好奇心いっぱいのナルト、続いて付き合いのいいサクラ。その様子を眺めていたサスケも、ナルトに急かされて渋々といった様子ではあったが、一緒に扉を押しはじめた。壁の一部なんじゃないかと思えるくらい重い扉を3人の子どもたちが一生懸命押している様子を眺めながら、銀髪の上忍はのんびりと呟いた。
「鍵がかかってんじゃないの〜?」
「そんなこと、やってみなきゃわからないってばよ」
根拠がないにもかかわらず自身ありげにナルトが言うのを受けて、サクラまでもが「そうよ!」という顔でカカシを見上げている。サスケは扉の方を向いたままだったが、
「・・・あんた、自分が疲れるのがやなだけなんじゃねーのか」
と、ぼそっと呟いた。ぎくり。カカシの顔が笑顔のまま固まり、それを見てナルトとサクラが騒ぎ出す。
「「ああ〜、カカシ先生(ってば)、自分ばっかりずるい(ってばよ)〜!」」
サスケは何も言わなかったが、上忍の風上にも置けないやつだという(ふうにカカシには見えた)目で見上げてくる。遠くまで任務に出かけてきて疲れてるのに、いうことを表すようにため息をついてみせたが、結局は数の論理に押しきられるかたちでカカシも扉を押しはじめた。

4人が扉と格闘しているうちに、ガガ、と扉と床がこすれるような音がして重い扉がゆっくり動いた。
大人ひとりが通れる分だけの隙間からは真っ暗な室内が見える。入り口付近の外の光にぼんやりと照らされた床は石造りだった。それ以外には何も見えず、建物の中が雨が降る森の中よりもさらに暗く、闇に沈んで何も見えないということがわかっただけだった。
「なんか見える?」
サクラが覗きこんだ下から中を覗きこんだナルトは、またしてもまわりが止める間もなく扉の中に入ってしまった。
「ちょっとナルト・・・」
うわあ。がん、ごん、がたがたがた。・・・がん。どさ。
サクラがナルトに声をかけたのと、ナルトが何かにぶつかったかなにかした音が聞こえてきたのはほぼ同時で、誰もがやっぱり、という気持ちで心もち目を座らせた。それでも罠だったら困ると、いち早くその状態から我を取り戻したサスケが、非常用のろうそくに火をつけて中に入った。

足を踏み入れた途端、黴の匂いがつんと鼻につく。天気が悪いとはいえ外の明るさは中とは比べものにならず、暗さに目が慣れてくるのを待つ。漆喰で表面が固められていない石の壁。扉の大きさのわりに奥行きは狭くて、子どもの足でも10歩といったところだった。奥の壁にある窓は雨戸が閉まっているらしく、どこからも明かりが入ってくる様子はない。ナルトは壁際で重そうな窓枠の下敷きになっていた。
「何してんだよ」
「んなこといいから早くこれをどかしてくれ〜」
どうやったらこんな頑丈そうなものが外れるようなぶつかり方ができるんだよ。燭台を下に置き、ナルトが絡まっている重い窓枠を持ち上げながら考える。
「大丈夫?」と言いながら、サクラが同じように燭台にろうそくを灯して入ってきた。黴の匂いに顔をしかめてあたりを見回す。続けて入って来たカカシは、入り口が狭かったにもかかわらず大きなかばんをしょったまま、広い戸口から入ってくるような自然さで、いつの間にかそこにいた。サスケはそちらにちらりと目をやり、少し焦るような気持ちでナルトから窓枠を外した。
改めてろうそくの揺れる明かりで部屋の中を見ると、入り口の右の壁がぽっかりと開いていて、奥にはさらに闇が続いていた。空気が微かに動いている感じがするのは、今こじ開けた扉のほかにもどこかに空気の入るところがあるということなのだろう。

やれやれと入り口近くの段差に腰を下ろしながら(おそらくナルトは最初にここを踏み外した)、カカシは3人を眺めた。ナルトとサクラがきゃっきゃと会話しているのを聞くでもなく聞いているうちに、3人は誰からともなく右側の部屋に入っていった。3人が3人とも同じことに興味を持つわけではないけれど、この建物は3人の好奇心を刺激するのに十分だったようだ。サスケとサクラの持つ明かりに、同じような広さの隣の部屋がぼんやりと照らされる。隣も同じく石の壁。奥のほうの壁の影のでき方がおかしいなと思ったら、そこから壁の裏側に入っていくように通路があるらしい。見ていたらサスケの明かりとサスケがそこに入っていき、それを追うようにサクラの明かりとサクラが、続いてナルトもそこに消えた。
やれやれ。
どっこらしょと腰を上げて、暗闇の中カカシも後を追った。

建物の中は外見どおり広いが、入り組んでいて迷路のようだった。通路なのか部屋なのかわからない微妙な大きさの部屋を通りぬけたり、狭い階段を降りたり上ったり、通路をいくつも曲がったり。壁はすべて石作りで、床も石。うっすらと見える天井だけは黒い木と、黒ずんだ漆喰で作られていた。通路の壁のところどころには四角いくぼみがあって、人が使っていたころはそこにろうそくを灯していたようだ。外に面していると思われる窓は雨戸がしっかりはまっていて、開けられた形跡はなかった。人が使わなくなってかなり経つのだろう。
扉のある部屋は2・3しかなく、そのいずれもがこれまでの部屋なのか通路なのかわからない部屋に比べたら大きくて、天井もかなり高かった。天井近くの壁には明かりとりのためなのか小さな四角い窓が幾つか並んでいて、またその中の幾つかはガラスが割れているらしく、鳥が巣を作っていた。空気もそこから入ってきているのだろうが、この広い建物の中に沈んだ黴臭い空気を浄化するにはあまりにも小さすぎるようだった。

ゆらゆら揺れるろうそくの小さな火は壁の一部分をそっと照らしていた。たまご色の火影が薄い色の石肌に揺れる。
サスケは一瞬ろうそくの火を見つめたが、すぐに目をそらして目の前に続く闇に目をこらした。いったいどこに続くのだろうか。入り組んだ通路のおかげで、方向感覚と時間の感覚がさっきから正常に働いていないような気になる。
「お墓の中みたい」
サクラとナルトが話しているところに時々カカシが加わる会話を背中に聞いてそのほとんどは聞き流していたが、「お墓」という言葉には思うより先に耳が反応した。
墓。
奇妙に心安らぐ感覚、死のイメージ。そんなことを思ったら急にいろいろ考え出してしまいそうな気がして、サスケは慌てて考えるのをやめた。ナルトとサクラのどうでもいいような話に加われば気も紛れるのだろうが、なんとなくそんな気にもならず、歩数を数えることで頭の中を空っぽにした。

黙々と歩くサスケが先頭で、カカシがしんがり。4人は短い階段を降りて行き止まりの部屋にたどり着いた。
「行き止まりだ」
最初の部屋よりは天井は高いものの、やはりそれほど広くはない部屋で窓や明かりをとる小窓はない。
それでも空気が動いているのをいぶかしく感じて、サスケが壁沿いをゆっくり歩き回る。一瞬ろうそくの明かりが大きく揺れたような気がして立ち止まったが、今はろうそくの火に変化はない。どこかに空気の入り口があるはずだ。ここまで来たのに、という思いももちろんあったが、この場所は意外とこの建物に入ってきた時の入り口に近いような気がしていた。それをわざわざここまで複雑な道程を辿らせておいて最後の部屋が何もない行き止まりの部屋なんて、よっぽどの道楽者であっても造らないだろう。

壁を撫でるように燭台を動かしていると、カカシが不意に声をかけてきた。
「もう2歩左かな」
いつもだったらむっとするかもしれないカカシの助言に、サスケは素直にしたがった。カカシの声に面白がっているような響きがなく、どこか一生懸命考えているような感じが含まれていたからかもしれない。そのあたりには確かにろうそくの火が大きく揺れるところがあって、サスケは片手で石を押してみた。石は少しも動かなかったが動きそうな手ごたえがあった。
「ナルト」
手伝え、と言おうとしたら、それよりも先にカカシがサスケの隣に座って石を押した。人の頭ほどの大きさの石が、こすれ合う音をたてて少しだけ奥に動く。下手に手を出しても邪魔だろうと判断して、サスケはカカシの手元を照らすだけにした。その周りの石も動きそうで、カカシは幾つかの石を少しずつ順番に移動させた。カカシとサスケの後ろからナルトとサクラが覗き込んでいる。

10個弱の石をカカシが動かしていくうちに、奥からの光が洩れはじめた。暗闇とろうそくの明かりに慣れた目には、青みがかった光はなにか確かな質量をもって感じられた。細く差し込んでくる自然の光。触れたら絹糸のように柔らかく手の中に収まりそうだ。
その光の束がだんだん太くなって、石が押し出された後、まずしゃがんだカカシの体の前面を青っぽく染めた。これまで見えなかった床の石の色は薄い色をしていて、同じように青みがかった色に照らされていた。
カカシが中を覗き込む。サスケも、カカシが退くのを待ちきれなくて、カカシの頭を押しのけるようにして中を覗きこんだ。部屋の中全体がやはり青い光で満たされていて、その空気を切り取るようにいくつかの白い光が差し込ん
でいる。ここからは見えないが、高い位置に窓があるらしい。外からの光は床近くに舞い上がる埃をきらきらと輝かせていた。
静謐な、空間。

カカシが動かした石の山を越えると、これまでよりひときわ大きな部屋に出た。天井がとても高く、奥行きもある。湿った黴臭さに慣れた鼻には、その部屋の空気はとても清浄に感じられた。きっとこれまで通ってきた通路とここは同じように古いに違いないし、床には埃がたまっているというのに。
明るさに目が慣れてくると、その部屋もそれほど明るいわけではなかった。外はまだ雨が降っているのだろう、高い位置にある窓から差し込む光は白っぽくて優しかった。埃を氷の結晶のようにきらめかせて、石が敷き詰めてある乾いた床にぼんやりと窓と同じ形の模様を映し出している。これまで通り過ぎてきたところにあった窓とは違い、雨戸は開けられていた。

部屋の奥には祭壇のようなものがあった。使われていたころはどうやら礼拝堂だったようだ。同じ石造りの大きな祭壇。
だがそれ以上にサスケの目を引いたのは、奥の壁の天井近くを飾る花びらを象ったような窓だった。小さな色とりどりのガラスを幾つも寄せ集めて造ったような花びらの部分には、羽の生えた人物や美しい女性が厳粛な面持ちで納まっていた。
真ん中には髭をたくわえた男性像。悲しい目にも、慈しみ溢れる目にも見える。いったい何を見ているのだろうか。
異国の神・・・。異国の信仰。
どんな神なのかはわからないが、かつては人々の信仰の対象であり、今もどこかでこの神を祈っている人のことを思うと、自然と厳かな気持ちになる。人々が真摯な祈りを捧げた場所。たとえ今は使われていないとしても、その時の祈りはこの部屋の中にまだ満ちているような気がした。
きっと多くの人が彼を信じ、彼は多くの人の心の支えとなってきたのだろう。見たこともない人々のたくさんの思い。
誰がいつ造ったものかはわからないが、人が何かを信じてこんなに大きな建物を造るということ自体に、なにか畏敬の念を感じる。その人々と、その人々の思いを受ける花びらの中心の人物に、サスケは心の中で敬意を表した。
傍から見たらただぼうっとその窓を眺めているように見えたかもしれない。

「永遠を誓うんだよ」
不意にカカシの声が耳に入ってきた。サスケに聞こえてきたのはサクラとカカシの会話の一部分だった。何に使われていた建物なのか、という話が、結局サクラ好みの結婚式の話にたどり着いたのだ。花嫁がどうとか、キスがどうとか、そんな話に混じって、カカシのその言葉だけがサスケの意識を捉えた。

永遠を誓う・・・?

自分自身そんなことできると思っていないくせに、あの上忍はいい加減にそんな言葉を使う。
永遠とか不滅とか、そういう言葉を簡単に使うことに対して、サスケは少し過敏だった。ずっと続くのだと思っていた幼い頃の満たされた生活は、ある日突然サスケの前から消えてしまった。残酷な光景だけを心に刻み込んで。
永遠に続くものなんて、ない。それが大事なものであればあるほど、いつかは儚く消えてしまうものだということはわかっている。あいつは、そんなことをわかっているくせに、気まぐれに「永遠」などとほざくのだ。
・・・自分だって、親友を亡くしたと言っていたくせに。まさか心の中で永遠に生き続けるとか、そんな乙女チックなことを信じているんじゃないだろうな。その親友は今でもカカシの中で親友でい続けているのだろうか?まだ、誰よりもそいつのことを気にかけているのだろうか?
・・・・・・。
他の人間が言ったのであったら聞き流せたのに、カカシが言ったからこそこれほど神経に障るのだ、ということにはサスケは気づかなかった。気づきたくなかったのかもしれない。

・・・それから、誓うって、誰に何を?
誓いという言葉を聞いて、真っ先に連想されるのはあいつの顔。自分とこの血に誓ったのだ。必ずあいつを殺すと。この体を流れるうちはの血に懸けて。
解き放たれることのない血の呪縛。この血は、例え時代が変わっても、自分が忍でなくなったとしても、何が起ころうとも死ぬまでこの体の中を流れつづけている。
死ぬまで、ずっと。
だからと言って、この血が流れていることを嘆いているわけではない。この血が体の中を流れなければ、自分は死ぬのだ。
実際、このうちはの血がなければ、と思ったことがないわけではない。しかし、なければと思うのと同時に、うちはの生まれであることを心の支えにしている自分がいた。いくら自分が不幸だと泣いてみても、それよりも強く、この血が流れていることを誇りに思った。自分は自分を信じるのと同じくらい、この血の力を信頼している。何よりも、誰よりも。
あいつの中も同じ血が流れている。オレやあいつが死んでも、もしかしたらどこかで息づいているかもしれない血脈。・・・そうやって血が続いていくことは、永遠という言葉の意味に適っているのだろうか・・・。オレが死んでも、ずっと?

「永遠」も「誓い」も、サスケの耳にざらざらした感触を残して消えた。サスケはきつく眉根を寄せ、壁を睨みつけることでその違和感も消そうとした。常に忘れたことはないと思っていた憎い仇の顔は、改めて鮮やかに意識に現れたことで体を不快感に震わせて、サスケはそれに耐えるために手を強く握り締めた。
サクラが顔を赤くしてたまにちらちらとサスケに視線を送ってくる。それを見てナルトがサスケをじと目で見る。ふだんはそれほど気にならないそれが今はやけにサスケの気に障って、その視線から逃れるために祭壇に近づいた。

「!」
少し離れたところから見たときはごみだろうと思っていたものは、小さな野の花だった。何本か、途中から折られて祭壇の上で几帳面な並び方をしている。
「・・・」
誰が供えたものなのだろう。水に挿されてはいないけれど、葉も花びらもまだ萎れきってはいなかった。朝あたりに摘まれたものなのだろうか。大きな石の祭壇に、白い花びらの小さな花。控えめなその花に供えた人の姿を見るようで、サスケはふっと表情を緩めた。
こんなふうに暮らしている人もいるのだ。朝に花を摘んで、造り付けの祭壇以外のすべてのものが持ち出されて閉じられた礼拝堂に、どんな神がいるのかも知らずにその花を供えにくる。そして自分と家族のささやかな幸せを祈って家に戻るのだ。
その想像が正しいのかどうかは確かめようがなかったが、自分とは関係なくそんな生活をしている人間もいるのだということが、サスケの胸をすこしだけ切なくした。自分とはなんと違うのだろう。そいつのことをうらやましいとは思わないが、なぜか胸が締めつけられるようで、苦しい。あいつの顔は頭にこびりついてまだ離れそうにないし、カカシのこともなにか苛立つし。

「何を泣きそうな顔して・・・」
いつの間にそばに来たのか、カカシが突然話しかけてきた。ちょうどカカシのことを思い浮かべたところだったので、内心かなり驚いた。こいつの気配はいつも見逃してしまう。今度こそは気づいてやると、いつもくやしく思っているのに。そう考えながらカカシには気づかれないように小さなため息をつく。それからカカシが言った一言がようやく頭に入ってきた。
「泣きそうな顔なんかしてねーよ」
あんたが言うことはいつもわけが分からない、という思いをこめて傍らに立ったカカシを睨みつける。
「ほんとだ」
どうでもよさそうな返事を返してくるカカシから、サスケはフンと顔を逸らした。その目の前に何かが差し出される。それは祭壇に飾ってあるのと同じ、小さな花。カカシとその花の取り合わせがあまりにも意外だったので一瞬混乱して、この祭壇の花もカカシが摘んできたのだろうかと、ありもしないことを考えてしまった。
「あげる」
「・・・なんだよこれ」
「いいから、ほら」
受け取らない理由があるわけではなかったので、サスケはいかにも渋々という様子を保ったままそれを受け取った。雨に濡れていたのか、花をそっとつまんだ指に雫がたれる。無意識のうちに花を軽く揺らして、雫を払ってから行儀よく並んだ花の列にそれを加える。サスケは意識してそうしたわけではなかったが、それはとても優しい手つきだった。いいものを見たと、カカシはマスクのしたでこっそり笑う。首を傾げて自分が置いた花を眺めてから、サスケは満足そうな息をついた。サスケ自身、気づかないうちに。カカシはまたしてもいいものを見た、とマスクの下の笑みを深くした。その気配を感じたわけではないだろうが、サスケが振り返ってカカシの顔を見る。
「何にやけてんだよ」
カカシは一瞬ドキッとしたが、顔には出さずに首を振る。その様子に何を言っても疲れるだけだと判断したのか、サスケがため息をついた。
「ナルトとサクラは」
「まだ外で摘んでる」
サスケは、ふうん、と面白くなさそうな返事を返してから振り返った。見ると確かに2人の姿はなく、扉が少し開いていた。雨はまだ降っているが、雨脚はさほど強くなかった。

「なあ、」
カカシに思わず声をかけてしまってから、しまったと思った。聞きたいことがなかったというわけではない。聞いてみたいことは確かにあったのだが、本当に聞くつもりはまったくなかった。カカシに聞きたいことはどれもこれもややこしくて、自分でもどうして聞いてみたいのかわからないし、カカシが答えてくれるとも思えないからだ。永遠を信じてるのかとか、信じているとしたらいったい何がカカシにとって永遠なのか、何かを誓ったことはあるのか、誰に誓ったのか、何を誓ったのか、親友のこと、顔の傷のこと、写輪眼、うちはの血、とかとか、その他諸々、・・・そういえば何で花を摘んできてくれたのか、・・・オレのことをどう思っているのか。最後に頭に思い浮かんだ言葉にサスケ自身が驚いて、続く言葉を失ってしまった。

「なに」
カカシはしばらく黙ったまま待っていたが、いつまでもサスケが何も言おうとしないのでその顔を覗き込んだ。サスケは何か固まったようになっていたが、はっとその顔に気づくと一瞬で顔を赤らめて、なんともいえない表情でカカシを見た。
予想もしなかったサスケのリアクションに今度はカカシが驚いて、サスケの顔をぽかんと見つめたまま「え」などと声を洩らす。
その声にサスケは自分を取り戻すと、一目散に扉の方に走っていってしまった。一緒になって固まっていたカカシが、慌ててサスケを呼び止める。
「ちょっと、サスケ、何!」
「なんでもねぇよ!」
「待てって!」
「知るか、ウスラトンカチ!」
なんでウスラトンカチ・・・。理由もわからずウスラトンカチ呼ばわりされてすこし傷ついたが、サスケの顔を思い出して自然と頬が緩む。いったい何だったのだろうか。いつも神経が張りつめたような顔をしているから、あんな無防備な顔をされると驚くと同時に何か胸が疼くような感じがする。

それにしても、とカカシは頭をかきながら、自分たち4人が這って入ってきたところを見た。あの石を元に戻すのをサスケに手伝ってもらおうと思ったのに。ひとりでやるしかないのか・・・。なんで1番えらいはずの上司のオレがこんなこと、とため息をついてみたりしたが、本当は気分はそれほど重くない。
結局ひとりで石を戻しながら、カカシはあまり疲れを感じなかった。さきほどのサスケの表情を見ることが出来たお得感がかなりのものだったからだ。きっと今日1日は口をきいてくれないかもな。そんなことを考えながら、表情はにこにこと、石をはめ込んでいく。

「カカシ先生ってばなんか気持ち悪いってばよ」
「ほんと、にやにやしちゃって。どうしちゃったのかな。ね、サスケくん」
「・・・(知るか)」
子どもたちがその様子を扉の影からそっと見つめてこんな会話をしていることに、自分で思っているよりも浮かれている上忍は、まだ気づかなかった。

 

 

 

END

2000/10/04
ブラン*

みらいさんと那須旅行に行ったので、その記念に書きました。
いちおうステンドグラス美術館が場所のモデルです、けど、あちこちかなり捏造。
行ったことのある方でもどこのことだかよくわからないかも!

それにしても、最近文章が長くなりがちです。本当はこの半分くらいが希望なのです。
・・・これでも短くしようと努力はしたのですが・・・。・・・甘くならないし・・・。がくり。

 

 

>>>那須旅行の画像&感想 
   お暇な方はどうぞ。(重いです)

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