Rain Forest - the latter part - 







>>>the middle part

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雨が本格的に降り始めてもしばらくは雨を避けるように木々の下を移動していたが、サスケがあまりにも遅れそうになるので、もう少し雨が弱まるまで木の下に身を寄せることにした。
先ほどまでは湿気を含んで生暖かかった空気は、雨が強くなるにつれて冷えてきた。

それほど歩いたわけではないのに、サスケは息があがってしまったらしく、肩で息をしている。気温がだいぶ低くなって、サスケの吐き出す息がいつの間にか白くなっている。前髪からはぽたぽたと雫が落ちて、青白くいっそう透けそうに見える頬を流れていく。サスケは体の脇で両手を握り締めて何も言わずに雨に煙る風景を眺めていたが、ぶるっと一つ大きく体を震わせると肩をすくめた。そしてカカシの大きなベストの襟を両手で合わせると、鼻までうずめた。

「寒いのか?」

サスケはそれには応えなかったが、その様子から十分伝わってきた。
ベストから出ている手足についた水滴の下には、ひとつひとつ繊細な手細工で作られたような鳥肌が見える。抑えようとしてはいるものの、体が細かく震えているのがわかる。
ベストを着けている胴体以外は雨で冷やされて冷たくなっているはずだ。
しかも変化の術をずっと使っている状態なのだから体力も消耗して、体の熱が奪われるのも早いのかもしれない。

まずい・・・。

そう思った時、サスケがベストの中で震えながら、くすんと小さく鼻を啜る音がした。風邪をひきそうなくらい寒くても、サスケは絶対「寒い」とは言わないだろう。これ以上弱みを見せるようなことはすまいと思っているに違いない。
温めてあげたいけど・・・。
カカシは迷いながら、とりあえずいつもするように頭を掻いてみた。

 

寒い。

サスケはカカシのベストの中で震える息を吐く。息を吐いた瞬間だけ顎のあたりがほんわりと温まるが、それもすぐに冷えていく。

この森はこんなに深かっただろうか。

木の下にいるものの、時々ぽたっと雫が落ちてきて体を濡らす。それでなくてももう濡れていて、体の熱がどんどん奪われていくような感じがする。

目の前の雨で霞む風景を見ながら、突然、垂れ流しだ、と思った。
蛇口をひねったまま閉じる方法がわからなくて水を止められないみたいに、チャクラが自分からどんどんと流れていってしまっているような気がする。実はさっきから何度も術を解こうとしてみたのだが、うまくいかなかった。蛇口を閉じる方法がわからないんじゃなくて、蛇口そのものが壊れてしまったというほうが正しいのかもしれない。変化の術でこれほど体力を消耗するなんて考えられないから、自分でも止められないうちに無駄に消耗してしまっているのだろう。

・・・カカシはこんな自分のことを呆れているのではないだろうか。うちはの血もたいしたことないと、心の中で失望しているのではないだろうか。
こっそり裸の女に変化したりして、しかも戻れなくなって、服は貸すことになるし、トラップには引っかかるし、助けなくてもいいものをでしゃばって助けようとしたりするし。しかも歩くのが遅いから雨まで降ってきた。

そこまで考えて自分の情けなさに唇を噛む。

みっともなく震える体。手も足ももうすぐ感覚がなくなりそうなくらい冷えてしまった。カカシの服は雨を吸い込んでぐっしょりと重く、ときどきその中の体をつぅっと水が伝っていくのがわかるが、その感覚は不愉快で冷たい。
暗くなっていく空と、やみそうもない雨。
隣で雨宿りをしているカカシ。
それらのどれも心を重くする。
自分のことは放っておいて、さっさと帰って欲しい。カカシひとりなら濡れずにそう時間もかからず帰ることができるだろう。なんでそうしないのかと考えだして、自分に唾を吐きたい気持ちになった。カカシが帰ればいいんじゃなくて、自分がカカシから離れたいだけだ。自分がカカシをこんな状況にさせたくせに、それを突きつけられているのが嫌で逃げ出したいだけなのだ。できれば、雨に濡れるのは全然かまわないから、このまま走ってこの場を離れてしまいたい。

・・・でももう体が自由にならない。

 

ふいにサスケの膝が折れて、前のめりに倒れそうになった。カカシはそれを抱きとめると、サスケの体の冷たさに愕然とした。こんなに冷えた体でいったい何を考えていたのだろうか。

「・・・」
思わず叱りつけようとして、サスケの顔を見て言葉が止まる。サスケの頬は濡れていた。
一瞬涙かと思ったが、雨なのかもしれないと思い直す。・・・それでも。そんな表情を見て心を痛めないでいられるわけがない。サスケの体を支えている腕からはサスケが細かく震えているのが伝わってくる。
顔を歪めているサスケをそっと抱きしめると、腕の中から弱々しい声が聞こえてきた。
「離せよ」

言うと思った。

今度はカカシが何も答えずに、両手の手袋を取ると、サスケを抱きしめたまま冷え切った両腕をゆっくりとさすりはじめた。軽く揉むようにして手のひらの体温をサスケの腕に移そうとする。
サスケはカカシの胸に額をつけてじっとしている。きっと悔しそうな顔をしていることだろう。

カカシの予想通り、サスケは眉を寄せ目つきを鋭くして唇を噛んでいたけれど、しばらくしてその表情を緩めた。
カカシの手が温かい。
大きな手のひらが、腕を包み込むようにして静かに移動している。
さっきまで寒くてたまらなかったのに、今はもう体の震えは止まってしまった。目を閉じると、湿った服ごしに、カカシの体温を額に感じる。
急激に体が重くなってきたのを感じてふぅ、と小さくため息をつくと、そのため息まで温かくなっているような感じがした。

 

「サスケ?」
抱きしめた腕の中でずっと硬く体を強張らせていたサスケが、急に体重をかけてきたのですこし驚いて名前を呼ぶ。もたれかかってくる細いからだの感触に一瞬ありもしないことを期待しそうになって、あわててそれを打ち消した。

バカ、何を考えてるんだ。相手はサスケで・・・。

しかし心臓は意志には反して大きく鳴り出してしまったようで、それをサスケに気づかれはしないかとどぎまぎする。気づかれたりしたらいったいなんと言い訳したらいいのだろう。
それよりも!もしサスケがその気だったりしたら、どうする!?
いや、そんなことはありえないけれど、女の体をしていることが微妙に心にも影響を与えたりとか・・・、もし、もしそんなことがあったりしたら・・・!

 

しかし、そんなカカシの耳に届いてきたのは、サスケの安らかな寝息だった。

カカシははぁ〜と大きくため息をつくと、木の根元に座ってサスケを抱きなおした。胸に頭をもたれさせてサスケの顔を覗き込むと、蝋細工のように真っ白だった頬にはほんのりと赤みが戻っていた。濡れて頬に張りついた髪を耳にかけてみるが、いっこうに気づく様子はなく、すやすやと眠っている。

人の気も知らないで・・・。

もう1回はぁ、とため息をついて空を仰ぐ。
雨足はさっきよりもすこし弱まってきているようだ。山の天気はころころと変わりやすい。

「いたずらしちゃうよ」
苦笑しながら囁きかけた自分の声が、自分で思っていたよりも本気っぽい響きを含んでいて、また苦笑いを深くする。

「あ〜ぁ」
サスケには聞こえないだろうなと思いながら、わざとがっかりしたような声を出してみる。
その声が聞こえたわけではないだろうがサスケが小さく身を震わせた。またサスケの腕をゆっくりとさすりはじめながら、雨が濡らしつづける景色を眺める。

もうすこし肉付きがいい方がいいかもな。
力を篭めたら折れてしまいそうな腕を優しく揉んで、そんなことを思ったりする。
今度、ちゃんとした「お色気の術」というものを教えてやるか。3人まとめて・・・、と言ってもサクラはちょっとまずいかな。それに、ナルトが腕試しにどこかで使ったりしたら、またオレの評判が悪くなるなぁ。

そんなことをつらつら考えながら、カカシはまた空を見上げた。

 

+++

 

雨が降っていたのが嘘のような空に、星がいくつか見えはじめている。

背中からは泥のように眠りこけているサスケの寝息が聞こえてくる。

 

あれからしばらく木の根元で雨宿りしていたら、夜の冷気が近づいてきたせいか、サスケが眠ったまま小さくくしゃみをした。

ぽぅん。
カカシの腕の中で小さく煙が上がって、その煙が少なくなってみるとサスケは元の姿に戻っていた。

まさかこんな形で戻るとは思っていなかったので、さすがにすこしびっくりしたが、そんなこともあるだろうと納得した。
必要だったのは、こんな些細なきっかけだったのだ。
元の姿に戻ってもサスケは相変わらず小さくて、さらに変化していた時よりも小さい体はベストの中にすっぽりと埋もれていた。あたりまえだが顔も元に戻っている。女性に変化したサスケの顔は、思っていたよりも今のサスケの面影を残していたようだ。変化している最中はサスケに似ているとは言っても、やっぱり別人の顔だと思っていたが・・・。
ちょっともったいなかったかな。やっと安心してそう思える。
サスケはよっぽど体力を消耗したのか、術が消えても眠ったままだった。

それからいくらもしないうちに雨がやんだので、カカシはサスケを背中におぶって歩き始めた。

 

里に戻ると、あたりはすっかり暗くなっていた。

 

+++

 

サスケが目を覚ました時、一番に見えたのは見慣れた天井だった。外はすっかり夜らしい。

 

カカシが何とかしてここまで連れてきたのだろう。
変化はいつの間にか解けている。これもカカシの仕業だろうか。そんなことを思ってサスケは眉をしかめる。
何時なんだろうと考えながら重い体を起こすと、カカシのベストを着たままでいることに気づいた。

でっけぇ。
心の中で呟いて、「これどうするんだよ」と口に出して呟きながら、また今日のことを苦々しく思い出す。
失敗した。
カカシに借りを作ってしまった・・・。
サスケはひとつ舌打ちをすると、布団をぎゅっと握り締めた。

・・・でも、何か他に愉快なこともあったような気がした。
そういえば、あのときのカカシの顔。

青くなっているのか赤くなっているのか、そのどちらにも見えたのだけれど、ものすごく変な顔をしていた。あんな顔、見せたことないのに。
そうか、上忍になっても、驚くことってあるんだな。
いつも何を考えているのかわからない顔をしていて、何事にも動じなさそうな顔をしているくせに、そうか、驚くこともあるんだな・・・。もしかしたら慌てすぎてベストを忘れて置いていってしまったのだろうか・・・。

・・・あれは「お色気の術」にやられるくちだな。ふだん隙なんか見せないくせに。
もう二度とやるまいという決心も後悔も少し鈍りかけていることには、あえて気づかないフリをした。

・・・ナルトにやらせてみよう。もしかしたら面白いものが見れるかもしれない。さてどう言ってナルトにやらせてみようかと考えをめぐらせると、自分でも気づかないうちに口元が笑う。

まだ湿気を吸い込んだままの重いカカシのベストをハンガーにかけると、どこに干したら1番乾くのが早いかと暗くなった部屋の中を見渡す。晴れれば日が1番よくあたる南側の窓の枠にそれを吊るすと、忍術の復習をするような真剣な顔でじっと見つめた。

そのサスケの頭の中は、今日見たカカシの間抜けな顔をもう一度見る方法を考え出すことで、いっぱいだった。

それから、はっきりと考えの中にのぼることはなかったけれど、カカシの手の温かい感触と腕の中のぬくもりが、心の中を満たしていた。

 

 

 

END

2000/09/24
presented by ブラン*

長い、長いです・・・。・・・すみません、これくらいのこと、もっと短くまとめればいいのに・・・。
お付き合いくださったお優しい方、ほんとにありがとうございます。(深々)

(裏にこっそり置いていたのですが、状況の変化に伴いひっぱりだしてきました。 
2001/04/09

 

 

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