Rain Forest - the middle part - 







>>>The first part

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時々、ぽつんぽつんと雨が顔に当たるのを感じながら、木々の間を里に向かって歩く。

 

サスケは甚だ不本意ながら、何度か木の根や、石や、先の鋭い草に足をとられた。体はこれまでより細長く、足はこれまでより小さいので、バランスをとり辛い。加えて、裸足と足場の悪い道。山道がこんなに歩き辛いと思ったことはなかった。

それからしばらく、なんとなく違和感を感じながら歩いて、何度目かに木の根につまづいた時、それはカカシの自分に対する扱いがいつもと微妙に違うことからきていることに気づいた。
カカシがこちらを気遣いながら歩いているのだ。
自分が女性の姿をとっていることで、無意識のうちにそういう行動をとるのだろう。その行動は本当にさりげなくて、サスケでなかったら気づかなかったようなものだった。
歩くスピードをこちらにあわせてか、いつもよりゆっくりなものにしている。足場の悪いところではさりげなく腰に手が添えられる。たまによろけたりすると、掴まるのにちょうどいい位置に手が差し出されている。
こいつのこんな態度・・・。
そういえば、女性に対してはこういうふうにしていたかもしれない。していないかもしれない。でも、注意してみたことはなかったが、今考えてみると思い当たることはある。

ふつう、男だったらそうするものなのだろうか。それとも、こいつがただ単にたらしなだけなのだろうか。

エロ上忍・・・、とサスケは心の中で呟く。
なんとなく、なんだか、・・・悔しい。何に対して悔しいのかわからないが、とにかく悔しくて、胸がもやもやしている。

「うわ」
歩くことに集中していなかったせいか木の根に足がすべり、大きく体がよろけて、それまで差し出されても無視していた手に思わずしがみつく。

・・・しまった。

サスケはフン、と鼻を鳴らして、自分から掴まったくせに、その手を乱暴に振りほどく。
くっそう、裸足はすべる。

ムカムカしながら歩いていると、隣のカカシがいない。振り返ってみると、カカシは少し後ろで立ち止まってサンダルを脱ごうとしていた。
「・・・何してんだよ」
「んー?はい」
カカシが今脱いだばかりのサンダルを、サスケの目の前に突き出してきた。
サスケは何も言わずにそれを見つめて、またカカシの顔に視線を戻す。
「・・・余計危ねぇ」
それでなくてもサスケの足はカカシより小さいのに、今はさらに小さいのだ。ブカブカのサンダルを履いて歩いたら、足の裏は確かに安全かもしれないが、歩きにくいのは試さなくてもわかる。雨の気配で湿った道ではなおさらだ。

「じゃ、これでも履いとく?」
そう言ってカカシが今度示したのは、指のところが切れているカカシの黒い手袋。

読めない・・・。

今さらながらにカカシの考えていることはわからないと呆れ、少し間抜けに口が開く。確かにサンダルよりはましかも、と思いかけて、慌ててそれを打ち消した。それを履いた自分の姿を想像してみると、それはかなり間抜けな姿だ。
「このままでいい」

それを聞いてカカシは「あ、そう」と別に残念そうでもなく言うと、また手袋をしなおした。さっきは見えなかった手の甲にたくさんの傷跡があるのが見えて、サスケの目つきがわずかにきつくなる。
「雨が降る前に帰るんだろ」
そう言ってまた前を向いて歩き始めたサスケを追って、カカシもまた歩き出す。

 

ケガしなきゃいいんだけどねー。
ちょっと過保護になってるかなあ、とカカシは頭を掻きながら、少しだけ前を歩くサスケを見下ろす。

・・・それにしても。ここまできれいに化けられるなら、何かに使えるかもしれない。

そうサスケに教えてやろうと思ったけれど、口を開きかけてやめた。
何が、というわけではないけれど、なんとなくしゃくだったからだ。別にいいんだけどね、と自分に言い訳するようにつけたして、サスケのベストを着た肩先で揺れる黒髪を眺める。変化する前と同じ、真っ黒な闇色の髪。何かを誘うように、黒漆のような深い光沢のある髪が揺れている。

・・・なるほどね。

サスケに寄せられる少女たちの視線は知っているけれど、カカシ自身はそれと同じようにサスケを見たことはなかった。整っている顔立ちだとは思うけど。それよりどちらかというと表情のほうが気にかかるのだ。
でもこうして見ると、サスケは確かに美しいのかもしれない。
・・・いや、やっぱり違うような気がするけれど・・・。

眉目秀麗、才気煥発、エリートの血筋で、こんな失敗をやらかすような愛嬌があって、しかも色気もあるなんてきた日には、いったいどうしたらいいのかね。

凡人はつらいね〜などとうそぶきながら、急に立ち止まったサスケに並ぶ。
「・・・」
「え?」
「悪いって言ったんだよ!早くよけろ!」
もう一度、え?と聞き返そうとして、道の脇の、サスケと反対側の木から短刀がいくつも飛んできたのに気づいて、すかさず身を伏せる。誰がいつ仕掛けたかわからない、おそらくはだいぶ古いトラップだ。カカカカっと乾いた音を立てて短刀が傍らの木に刺さる。
サスケがトラップの仕掛けを踏んだか何かしたのだろう。珍しい、と思ってすぐ、サスケがいなくなっていることに気づく。

「サスケ?」
呼ぶとすぐに上のほうから気配が降りてきた。跳んでかわしたのだろう。そちらに目をやろうとしたらサスケの怒号が飛んできた。
「上を見るんじゃねぇ〜!」
その声に一瞬動作が止まり、あ、上を見たら、というか、下からサスケを見たらさすがにやばいよな、と思考がどこかにずれた。でもそのまま、惰性で首が上を向く。

がす

「上向くなって、言っただろ!」
視界が何か白いものでいっぱいになり、これはなんだと一瞬不思議に思っている間に顔面に衝撃が走った。

それはどうやらサスケの両膝だったらしい。
よろり、とのけぞりながらそう判断し、それにしても過激だと、痛いのになんだかおかしくなる。そのまま傍らの木の根に足をとられて仰向けに倒れそうになった。
そして今度はカカシ自身がトラップに引っかかったらしい。倒れ掛かる体に、上方の枝からまたいくつかの短刀が降ってくる。降ってくる短刀の一本一本を目におさめ、体をひねってかわそうとしたところに、横から何かが飛び込んできた。
かわそうとした体の勢いはそれに消され、はじかれるように地面に転がった。

飛び込んできたものの正体はサスケだった。カカシには見なくてもわかる。
カカシを庇おうとしたのだろうが、あれではかえって危ないくらいだった。避けきれないとでも思ったのだろうか。
自分のせいだと思ってるんだろうな。ぶっきらぼうそうに見えて、サスケは真面目に仲間を大事にしようとするやつなのだということに、カカシはこのごろうすうす気付いてきていた。
オレのことまで守ろうとするなんてね。

確かに一瞬ぼんやりしていたように見えたかもしれないけど、これくらいかわせるのに。
そう思いながら体を起こそうとすると、カカシの胸の上にサスケが張り付いていた。
「あれ」

「・・・」
カカシの、なんでいるの、というような視線から目を逸らして、サスケは湿りつつある地面を睨みつける。
カカシなんかこちらが助けようとしなくたって勝手にかわすことが出来たはずなのに。
判断力が鈍っている、と我ながら苦々しく思いながらカカシの胸に手をついて体を起こそうとする。

「・・・っと待った!」

急にカカシが大声を出すのに驚いて、体を起こそうとしていたサスケの動きが止まる。
待つって何を?とちらっと考えた瞬間、カカシがサスケの両腕をつかんで、がばぁっとばかりに起き上がった。

え?

目を丸くしてサスケが驚いていると、起き上がったカカシはサスケの腕を掴んだままがっくりとうなだれた。

え?

「あのね・・・、もっと気をつけて動いてくれないと困るんだけど」
何を?という気持ちを表情に表してカカシを見ると、そのサスケの顔を見ていないにもかかわらず、カカシは困ったように頭を掻いた。
サスケの反応を窺うようにしてちらっとカカシが顔を上げたとき、その顔は真っ赤になっていた。わずかに見えている右頬と右耳が、真っ赤だ。
「・・・何だよ!?」
ものすごく意外なものを見てしまって一瞬固まったサスケも、さすがに慌てたらしい。
「体の調子でも悪いのかよ!」

サスケのこの反応に、カカシはほんの少し泣きたい気持ちになった。
・・・察してはくれないわけね。
自分が見て見ぬフリをすればそれでことは済んだかもしれないのに、と思うと、時間を巻き戻せないのが本気で残念に感じられる。
・・・しょうがない。見て見ぬフリをするには、自分でも情けないことに純朴な少年みたいに反応して、真っ赤になってしまったのだから。そんな歳でもなかろうに・・・。
それにしても、ベストの開いた襟元から見えたそれは、よく実った果実のようでいて、真っ白で柔らかそうで・・・。触ったらどんな感触がするのだろうと、抑えがたいような強い興味がわいてくる。この体に、あれは反則かもしれない。全体から滲み出る雰囲気からは想像もできなかった。もやもやとした思いに耽っているうちに、いっそのこと触ってしまおうかという考えが浮かんできて、慌ててそれを打ち消す。いやいや、それは痴漢だ。犯罪だ。
しかも、中身はサスケ。今さらながらにこの倒錯的な状況に気づき、今度は思考が一瞬ストップする。

サスケは赤くなったり青くなったりするカカシの顔を、よく見ないとわからないくらいうっすらとではあったが、心配そうに見つめている。

そんなサスケの気配を感じて、カカシは、はあ、とまたひとつため息を吐いた。そして、意を決したように言った。

「おっぱい、見えちゃったんだけど」

サスケはその言葉の意味がわからなかったのか、神妙な顔でカカシの顔を見つめた。
しかし、カカシがあれ?と思っている間に、そろそろとベストの襟を掻き合わせて、叫んだ。

「いっぺん死ねーー!!」

 

サスケが間近にあったカカシの顎に頭突きを入れるのと、大粒の雨が一斉に降り出したのは、ほぼ同時だった。

 

 

 

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2000/09/24
presented by ブラン*

 

 

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