バーミリオン・ペイン 2







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火影との話を済ませて医務室に戻る。
扉を開けようとして、中の笑い声に手を止める。

「なーんで、オレのことはナルトって呼び捨てで、サクラちゃんはサクラちゃんなんだよー」
「なによナルト!文句あるの!?」
それに続いて、あはは、と笑う、声。
カカシには一瞬誰の声なのかわからなかった。

「サクラちゃんもナルトも忍者なの?」
「え、サスケくんだって・・・」
言いかけてサクラが黙り込む。

それに気づいてか気づかないでか、「額あてしてるから」とサスケが言う。
「へへへ、すげーだろ〜」と得意げなナルトの声。
ふだんドベだのバカだのとばかにされてる分、ここでは優位に立っておくことにしたのだろう。

「僕もね、忍者になるんだよ!」
はずんだサスケの声。こんなにはずんだ声は初めて聞いた。
なぜか胸が苦しくなる。

「じゃあ、なんか忍術とか使えるの?」
「もちろんだってばよ!」
「ちょっとナルトー、そんなこと言っちゃっていいの?」
「あっ、ひどいってばよ、サクラちゃん!」
「わぁ、見せて!」
「忍者たるもの、そー簡単には見せられないんだよな〜」
「バカ!できないだけでしょ」
「あはは、じゃあできるようになってからでいいよ」

ナルトが騒ぐ声と、笑い声があがる。

カカシは、そんな中の様子をうかがいながら、扉の前に立ち尽くす。

どう入っていったらいいものか。
そして、3人になんと説明したらいいものか・・・。
予想以上に難事だなぁ、とため息をつく。

そんな自分と比べて、ナルトとサクラの柔軟性に感心した。
ついさっきまで目を白黒させていたくせに、サスケの様子から何かを感じとって、精一杯対応しようとしている。
そして事情がよくわかっていないにしろ、サスケを不安がらせまいと気を使っている。サクラはともかく、ナルトまで。
サスケもそんな気持ちを感じるのか、今では初対面となった2人に打ち解けた様子で話している。

とりあえず、今日は解散して、サスケをつれて、帰ろう。

カカシはそれだけ考えると、やっと扉を開けた。

 

 

また明日〜!と言う元気な声をサスケと2人で見送った。

ナルトとサクラは物問いたげにしていたが、結局何も話さないまま帰らせた。
きっと、事情は薄々わかっているだろう、と都合よく考える。
そして、心配は心配だけれど、とりあえず自分に任せることにしてくれたらしい。
思っていたよりずっとしっかりしているんだなぁと、また、らしくもなく考える。

逆に言えば、自分がうろたえてしまっているのかもしれない。

 

「さて・・・」
振り向いてサスケを見ると、やや緊張した面持ちでこちらを見上げている。
いつも見ているサスケとは、同じ顔なのに、違う表情。

「お前は、オレが預かることになったから・・・」
なんと言えばうまく伝わるだろうと苦心する。
「怪我のこともあるし、・・・火影様と話して、そういうことになったから・・・」
こんな言い方・・・。
他にもっと言いようはないのかと必死で言葉を探す。

黙ってしまったカカシを見つめて、心配そうにサスケが聞いた。

「お母さんは・・・」

ぎくっとしたが、なんとか表情には出さないで済んだ。
母親のことを言い出すとは・・・。

「・・・僕、家に帰ったらいけませんか?」

「いや、そういうわけじゃないが・・・、・・・・・・」

サスケが言う家とは、ひとり暮しをしているアパートなんかではなく、うちはの家であるということはわかった。
わかったが、なんと言ったらいいのかわからない。

うちはの家はもうないし、うちは一族もお前しか残っていないんだ。
そして、今のお前には、ここ何年間かの記憶がないんだ・・・。

そう告げることもできたが、傷つくであろうことを考えると、さすがにそれはためらわれた。

少し話を変えようとする。
「オレもね、忍者なんだよ」
サスケは黙ってうなずく。
「しかも上忍なんだ」
とたんにサスケの顔が明るくなった。

「おじさん、上忍なんですか!?」

おじさん・・・。
その響きに、カカシはがっくりと肩を落とした。

「あっ、ごめんなさい」
サスケが慌てて口を抑えた。
でも、目だけはきらきらと輝かせて、カカシを見つめている。

カカシは苦笑して、サスケの頭をぽんぽんと撫でた。
「カカシでいいよ」
そういえば、サスケにはまともに呼んでもらった記憶がないな、と思った。
推定年齢4〜5歳の、今のサスケはう〜んと何事か考えている。
初対面の大人を呼び捨てにするのには抵抗があるのかもしれない。
顔を上げると、「あなたはサクラちゃんとナルトの先生なんですか」と聞いてきた。
「そうだよ」
・・・君も僕の担当の1人なんだけどね。
「じゃあ、僕もカカシ先生って呼んでもいいですか?」
「・・・いいよ」

じゃあ、カカシ先生、とうれしそうにサスケが笑う。
見たことのないような表情で笑うものだから、本当は複雑な気持ちだったのに、つられてカカシも微笑んでしまった。

 

 

やっと2人でカカシの家に向かう。
カカシの笑顔にほっとしたのか、歩きながら、サスケがいろいろと話しかけてくる。

「僕も忍者になれるかな・・・?」
「・・・なれるよ」
「僕の、お父さんも忍者、なんです」
「・・・うん」
「カカシ先生と同じで、上忍なんだけど・・・、先生知ってる・・・?」
「・・・知ってるよ」
「えへへ、・・・お父さんてね、すごいの!」
「・・・うん」
「おじさんとかね、兄さんとかね、みんなすごいんだけど・・・、お父さんが一番強いんだよ!」
「・・・そうか」

カカシが応えるたびに、カカシの心中など知らぬようにサスケがにっこりと笑う。
忍者と、一族と、父を、とても誇りに思っているのだろう。

「あっ、じゃあお父さんたち、ニンムなのかな・・・」
サスケがつぶやくのが聞こえたが、それに対しては何も答えることができなかった。
それにはかまわずに、サスケがにこにこついてくる。
自分なりに納得がいく答えが出たらしい。

カカシはなんとなくほっとして、サスケの頭を撫でた。

サスケはまたうれしそうに、にっこりと笑いかけてきた。

 

 

家に着き、カカシが簡単に用意した夕食を食べてから、居間に布団を敷いた。
着るものはとりあえずカカシのものを貸してみたが、ずいぶんぶかぶかだ。

よそのうちに泊まるというシチュエーションがそうさせるのか、サスケははしゃいでカカシにあれこれと話しかけてくる。
知るつもりもなく、これからも知ることのなかったであろう幼いサスケのささいな話。
それは、うちは一族の消滅と、その結果のサスケの復讐者としての決意を知っているカカシにとっては、つらいものでしかない。
話を変えようとして、カカシは自らの任務の経験の中から、サスケの喜びそうな話をいくつもすることになった。

聞いているうちにいつのまにか眠ってしまったサスケに、ほっとしながら布団を掛けてやる。
後頭部の傷のことを思い出し、血のついたガーゼを替えてやらなくてはいけないという考えがちらりと頭を掠めたが、気づかないふりをして寝室に向かう。

目が覚めたら、元のサスケに戻っていたら・・・。
そうなってくれればどんなにいいことか。
今、サスケを起こしたとして、やはり元のサスケではない幼いサスケの表情のままで目覚められるのが怖かった。

今日はとんでもない日だったと、カカシはベッドに倒れこんだ。

きっと明日になれば戻っている。

何の根拠もなくそう思い、ああこれは自分の希望的観測だと頭のどこかで冷静に考え、カカシは眠りに落ちていく。

戻っていない場合のことを考え出してしまわないうちに。
・・・逃げるように。

 

 

 

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